ドラマ陸王原作小説第1章あらすじネタバレ
こはぜ屋がある行田市は元々足袋の町で、日本で生産される足袋の八割ほどを生産していたこともある。
それが時代の流れによって足袋の需要は減少、製造業者も激減した。
創業100年の老舗であるこはぜ屋も、やはり売り上げは減少傾向にある。
従業員は正社員とパートを合わせて27人しかいないうえ、平均年齢は57歳。
最高齢は75歳という、ミシンが古ければ従業員も古いといった会社だ。
宮沢は会社に戻った途端、経理担当の富島玄三から検針洩れの返品が来ていることを知らされる。
検針担当は宮沢の長男、大地。
地元の大学を卒業はしたが就職に失敗し、一時的にこはぜ屋で働いている。
一時的なのは、衰退していく足袋製造業を息子に継がせられないという親心からだ。
資金繰りも厳しい。
取引をしているさいたま中央銀行に融資の話をすると、担当の坂本太郎からは新規事業の立ち上げを提案されてしまう。
全くの新分野ではなく、こはぜ屋の強みを生かせる事業を。
100年続いた会社には、きっと何かあるはずだから、と。
それに対して保守的な富島は
「うちは足袋屋、強みと言えばしぶといこと」
「余計なものに手を出して三代守ってきた身代をつぶすわけにはいかない」
と否定的でいい顔をしない。
宮沢は東京での営業回りに向かいながら、大地と就職の件で言い争ったことにため息をつく。
そして30年前、家業を継ぐ前に修行をするため、大学卒業と同時に大徳百貨店に就職したことを思いだす。
しかし、一般消費者に直接モノを売るということに対するカルチャーショックしか覚えていない。
あの時、今に繋がる何かを身に付けておけばよかったと後悔し、大地には自分と違う人生を送って欲しいと願う。
主要取引先のひとつである大徳百貨店に、改めて検針洩れを詫びる宮沢。
大きな問題にならずホッとしたのもつかの間、和装売り場の面積が3割減少することになりそうだと言われてしまう。
その後の百貨店、専門店めぐりでも大した成果は上がらない。
疲れに襲われながらも、宮沢は娘に頼まれたスニーカーを買うため売り場に向かう。
ディスプレイされた靴を眺めていると、5本指が付いたビブラム社の『ファイブフィンガーズ』が目に留まる。
地面を掴んで走る感覚が出やすい、裸足感覚で走れる、という部分が地下足袋と似ていると感じる宮沢。
一方、就職活動が上手くいかない大地は、自分はそんなに価値のない人間なのかと落ち込んでしまう。
東京での得意先回りを終えた宮沢は、車を運転しながら、地下足袋をランニング用に改良してみるのはどうかと考える。
帰宅後、大地の就職について妻の美枝子と話す中で、大地が本当はこはぜ屋を継ぎたいと思っているのではないかと言われ、宮沢は会社の将来と新規事業のことを本気で考え始める。
ドラマ陸王原作小説第1章感想考察
文章量としてはそれほど長くないにもかかわらず、さらに小題で細かく分けられている。
実際に読んでみると、場所が変わったり時間に隔たりがあったりする所で切れているので、わかりやすくて読みやすい。
プロローグでほとんど説明がなかった主人公の会社についても、彼らが会社に着いた流れで詳しく書かれていて違和感がない。
でも、プロローグで感じた不穏な空気がここまで漂ってきているようで、落ち着かない気持ちになる。
というのも、検針洩れというあってはならない失敗があり、さらに資金繰りのために融資の相談をしなければいけないという、胃が重たくなるような話が続くのだ。
しかも銀行で融資の話を切り出すと、今後どうするつもりなのかと切り返される。
このままでは融資できなくなるかもしれないから、新規事業を考えろと言われて冷静でいられる人はなかなかいないんじゃないか。
しかも主人公は新しいことをしようなんて考えてみたこともないし、会社の経理担当は頑固一徹、保守派で余計なものに手を出すなんてとんでもないという人なのだ。
そこにきて、営業に出ると厳しい現実を突きつけられる。
百貨店では和装売り場の規模が縮小され、回る営業先でもいい結果は得られない。
長男は就活に失敗するし、自分の会社で働かせてみればミスをする。
その自分の会社でさえも、いつまで続くかわからない。
もちろん息子に継がせるなんてとんでもない。
そこまで追い詰められていたからこそなのか、スニーカーを眺めていて地下足袋をランニングシューズに改良してみたらどうかというアイディアが出るのは、さすが経営者だな、と感じた。
しかも、そこに5本指のスニーカーがあるなんて、もう奇跡じゃないかと思ってしまう。
でも、こはぜ屋のモデルになったお店が実際にあって、池井戸さんに取材をされている。
この話も実話なんだとしたら、やっぱり成功する人はちゃんとアンテナを張っていて、チャンスの神様の前髪をがっちり捕まえられる人なんだと思わざるをえない。
これだけ主人公の宮沢を持ち上げておいてからの、失敗続きで落ち込んでいる大地について。
これはもう、現代の若者そのものなんじゃないかと思う。
自分が何をしたいかわからない。自分の何が悪いのかもわからない。
面接に落ちまくって、自分には何の価値もないと思い込んでしまう。
そうじゃない、違うんだって冷静に考えることができない。
目指すべきゴールがないから、どこに向かって走っていけばいいのかわかっていないだけ。
まずは自分がどうなりたいのかゴールを見つけること。
どこかに就職するということは、ゴールにたどり着くための手段のひとつでしかない。
それに気付いてほしいというメッセージが込められているように感じた。