ドラマ陸王原作小説第3章あらすじネタバレ
6月半ば、宮沢は上尾市にあるダイワ食品の「ダイワ食品スポーツ管理センター」を訪ねる。
監督の城戸明宏と話し、「陸王」を茂木選手に使ってみてほしいと手渡しはしたものの、手ごたえはない。
肝心の茂木が大手スポーツ用品メーカー、アトランティスのサポートを受けていたからだ。
その茂木の故障は走法を変える必要のあるもので、ただの怪我とは違って時間のかかる難しい状況に置かれていた。
茂木の故障に対して、アトランティスのベテランでありカリスマとも言われるシューフィッター村野尊彦は今後を案じ、同社の営業部長である小原賢治はサポートを続けるか打ち切るか考え始める様子を見せる。
そんな時に偶然「陸王」は茂木本人の手に渡るものの、使ってもらえる様子は全くない。
また、埼玉中央銀行の坂本は前橋支店へ異動することが決まる。
栄転ではなく島流しではないかという今回の異動は、坂本にとってもこはぜ屋にとっても良くないニュースだ。
思いがけずうれしい話もあった。
インストラクターの有村から、光誠学園の体育シューズの見直しコンペに参加してみてはどうかと紹介があったのだ。
最初から一流ランナーに履いてもらうのは難しい。
であれば、学校へ売り込むといった地道に実績を積み上げていこうという戦略だ。
宮沢にとってはほぼ初めてのチャレンジだったが、手ごたえを感じほおを緩める。
しかしコンペの相手はアトランティス。
結局、実績がないという理由で受注は見送りに終わる。
怪我を本当に防ぐことができると実証されていないため、実験台にされるのではという意見もあったという。
また、アトランティスの値段は陸王の倍以上だったのに選ばれたという事実があった。
その背景に、ソールの弱さを指摘する声があり、ソール開発の必要性が強調される。
コンペの結果を受け、富島はだめなものはだめで本業に専念しろという。
宮沢はそんな富島との考え方の違いにいらだちを感じ始める。
結果を報告した開発メンバーの安田からはまた出直しましょうと言われるものの、宮沢は虚しさと敗北感を感じずにはいられない。
茂木はというと、総務部労務課の係長である野坂敦から走法改造はうまくいっているのか、いつごろ復帰できるのかと迫られていた。
走法改造はまだ完成する見込みが立っておらず、「来年のトラックシーズンまでには」と言葉を濁す茂木に対して、野坂の視線は鋭く厳しい。
引退の可能性を見極めようとする目に、陸上競技人生との別離がちらつく。
さらにライバルの毛塚との差が開いていくことに対し、茂木は悔しさとじれったさを感じていた。
ドラマ陸王原作小説第3章感想考察
悪いこともあれば、いいこともある。
読み始めた時にはそう感じたはずなのに、三章を読み終わってみると全然違う印象になった。
光が見えてきたと思ってからの落胆は、ふり幅が大きい分だけダメージが大きい。
ただ下降するだけよりも、むしろ悪い状況なんじゃないかと感じてしまう。
有名選手に陸王を履いてもらって知名度を上げていこうという作戦は、スタートラインである本人に受け取ってもらう、というところからしてうまくいかない。
さらに新規事業の立ち上げ提案からずっと応援してくれていた坂本が転勤になり、手ごたえを感じていた教育現場への採用コンペでは、大手アトランティスに完敗してしまう。
アトランティスとは今後茂木選手のサポートでも対立しそうな予感があるうえに、肝心の茂木の怪我だって、走法の改造をしなければならないという状況で、見通しはよくない。
新規事業を立ち上げるということは、当たり前なんだろうけれど決して甘くない。
それを改めて突き付けてくる。
プロローグから今までは、基本的にこはぜ屋視点での話がメインだった。
そこにランナーである茂木の視点が新たに加わることで、さらに話に引き込まれていく仕掛けになっている。
故障したプロの陸上選手、そんな立場の人はそういるものではないけれど、今までの人生で一度も挫折を味わったことがない、という人もそういないのではないかと思う。
だからこそ、どん底から這い上がりたいという焦り、うまくいかないことに対する不安やイライラがリアルに感じられるのだ。
さらに、こはぜ屋のライバルになるであろうアトランティスの実体も少しずつ明らかになってきた。
大手企業の強さはもちろん、驕りも垣間見えている。
自然と読む側としてはこはぜ屋を応援したくなってくる。
敗者となり再起の見通しも立たない茂木に対する企業の冷淡な態度にも、反発の気持ちと茂木へのエールの気持ちが湧いてくる。
弱者に自分の弱さを投影し、「がんばれ」「負けるな」と言ってあげたくなるのかもしれない。
最後に、章題である『後発ランナー』とは何を指しているのか。
文字通り、スタートする前の時点ですでにライバルから後れを取っている茂木のことを指している。
というのは当然として、もうひとつ、大手企業がひしめき合うランニング業界に新たに進出しようとするこはぜ屋のことも指しているに違いない。
ひとつの題でありながら、いくつもの交錯する物語それぞれにあてはまるのは、さすがとしか言いようがない。
さて、この圧倒的に不利な状況をそれぞれがどのように打開していくのか、今後の展開から目が離せません。