ドラマ陸王原作小説第11章あらすじネタバレ
大地は朝早くから夜遅くまで忙しく働いていたが、足軽大将の好調でこはぜ屋の業績は急回復しており、それを陰で支えているということを誇らしく思っていた。
忙しさすらも楽しいと感じる程に。
そんな時に飯山がかつて借金をした金融業者に痛めつけられて全身打撲と骨折、全治三週間の怪我を負ってしまう。
それから飯山が抜けてしまった穴を、大地が埋めようと奮闘する。
宮沢は改めて試作品用の機械を見て頼りなく感じてしまう。
どうしたらいいか尋ねる宮沢に、富島は「今うまく回っているなら、それでよしとすべき」と答える。それで間に合わなくなったとき、新たな機材を投入することを考えてはどうか、と。
ビジネスチャンスを逃すことにならないかと思いながらも、富島の経験に基づいた見解をとにかく受けとめる宮沢。
銀行からの追加融資は予想に反してうまくいった。
好調な売り上げに対する仕入金ならば、ぜひ支援したいということらしい。
さらに、大島からタチバナラッセルという編み物の会社を紹介される。
設立三年目のベンチャー企業ではあったが、編み方の新技術で特許をとっている。
サンプルを見た村野からのゴーサインで、村野と宮沢は大橋と共にタチバナラッセルを訪問することになった。
社長である橘は、ランニングシューズに興味があるし、技術力にも自信があるけれど大手メーカーにはなかなか採用してもらえない。
発注単位もどのくらいの量でも構わないし、興味のある素材があれば、試作してからの発注でもいいと申し出てくれる。
間を取り持ってはくれたものの、相変わらず素っ気ない態度をとる大橋に、宮沢はわかってきたことがあると話し出す。
「ビジネスというのは、一人でやるものじゃない。一つの製品を作ること自体が、チームでマラソンを走るようなものだ」と。
茂木は親しい先輩であり、良き相談相手である平瀬と食事に出かけ、「陸上を辞める」と打ち明けられる。
「毛塚の走りを見て、あいつに勝てないと気付いた瞬間気力が抜けてしまった。もう続けられない」と。
入院中の飯山に、大地から機械に不具合が出るというメールが届く。
こんな時に体は思い通り動かない。
自らの行動が原因で迷惑をかけることになってしまった飯山は、今まで見せることすらしなかった設計図を大地に渡す。飯山なりの懺悔だ。
その設計図を見て、大地は改めて飯山がシルクレイの開発にそそいだ情熱と知識に敬意を抱いた。
目星を付けた場所を解体する作業は深夜まで続いたが、疲労を感じるどころか興奮していく。
ついに不具合のある箇所を発見したところで、パジャマ姿の飯山が現れた。
戸惑う大地を一喝し、設計図の問題箇所を確認する飯山。
二人は部品交換をするために保管庫で使える部品を仕分けしながら、仕事や就活について話し始める。
その中で飯山は「大事なのは人。絶対に代わりがないのは、モノじゃない、人なんだ」
「本物のプライドは看板でも肩書きでもない。どれだけ自分と、自分の仕事に責任と価値を見出せるかだ」と熱く語り、そんな仕事が自分にも見つかるかなと言った大地に、今やってるじゃないかと答える。
そうかもしれない、とハッとする大地。
少し体を動かすだけで苦しそうな飯山だったが、打撲や骨折で死ぬ奴なんかいないと手を止めようとしない。が、ついに倒れこんでしまう。
飯山を病院に送り返し、作業を再開する大地とそれを見守る宮沢。
飯山程の人が倒産してしまうなんて、とふと言いはじめた大地に宮沢は「人生の賭けには覚悟が必要。勝つために全力を尽くす。愚痴を言わず人のせいにせず、できることはすべてやる。そして、結果は真摯に受け止める」と言う。
賭けに負けたら元も子もないとさらにいう大地に、宮沢は「飯山さんは過去に倒産したけれど、今仕事を全うしようとしている姿をオレは尊敬している。お前もそうだろう」と言われ、たしかにそうだと感じた大地は、思っている以上にわかっていない自分のことを改めて考え始めたようだった。
ドラマ陸王原作小説第11章感想考察
冒頭から、飯山が金融業者から襲撃されるという事件が起きる。
大地が仕事に対してやりがいを感じ始めていた矢先だ。
飯山にしても、自分の発明がこはぜ屋を救いつつあると実感して喜びを感じていた時だったと思う。
過去の自分の行動が起こした事件だからこそ、無念の気持ちは大きい。
責任感と執念の塊みたいな人だからこそ、機械に不具合が出た時、自分の命より大事であろうシルクレイ製造機の設計図を大地に託したのだと思う。
まさに贖罪と言う言葉がふさわしい。
飯山の仕事に対する思いは、言葉や行動の端々に現れている。
「オレは立派なオヤジだ。立派なオヤジには責任ってものがある。義理もあれば人情もある。命より大事なものってのが、この世にはある」というセリフ、パジャマのまま病院を抜け出し、汗をかき、苦痛に顔をゆがめるほどの痛みに耐えながら機械を修理しようとする執念。
こんな飯山だからこそ、グラグラ揺れまくっていた大地に真っ直ぐ太い芯を作ることができるのだと思う。
それこそ背中で語るという格好よさ。
やっているのは泥臭いガチンコ勝負だろうけれど、だからこそ真っ直ぐ伝わるなにかがある。
本当に尊敬できる人の言葉だから胸に届くのだ。
『陸王』全体を通して伝えたいテーマに「働くことの意味、そして素晴らしさ」という簡単な言葉では伝えられない思いがあると感じた。
その中でもこの章は、特にその思いが熱く語られている。
飯山や宮沢の行動、言葉、そして大地の体験を通してじわじわと体にしみこんでくる。
挫折を味わった茂木や、今まさに負けという結果を受け止めようとしている平瀬の姿にも、真剣に勝負を挑んでいる人間の魅力があふれている。
プロとしての仕事をするなかで厳しい意見も言う、妥協はしない。
信念を曲げない強さを持った村野の姿にも憧れてしまう。
ここにきて、新しい登場人物が現れる。
大橋に紹介されて訪れたタチバナラッセルの橘社長だ。
この人も、自分の仕事と技術にプライドと自信を持っている。
ランニング業界におけるこはぜ屋のように、実績がないところで苦労しながらも、勝負に出ようとしている。
同じ志を持って戦える相手を見つけるというのは、本当に難しいことだと思う。
同じ会社で同じような仕事をしている同僚とさえ、考え方の違いで衝突してしまうのだから。
どんなにやる気があって向上心を持っていても、一緒に働く人間にやる気がなくて張り合いがなければ、その気持ちを持ち続けるのは難しい。
困難な状況であればなおさらそうだ。
そりゃ、会社を辞めたくもなっちゃうよね、と。
自分だけが苦労していると思ってしまったらもう続かないとわかっていても、こいつには負けられない、という人間を探すことが難しい。
尊敬できるような人間だってそうそういない。
自分がそういう人間になってやろうと思えるほど強い人は、もっと少ないと思う。
「ビジネスというのはチームでマラソンを走るようなものだ」という言葉が胸にしみる。
一人一人が責任を持って動くからこそ、チームになったときに勝利を掴める。深い言葉である。