ドラマ陸王原作小説第8章あらすじネタバレ
飯山はシルクレイをソールに適した固さに調整する、という技術的難問に取り組み始めた。
大地も特に拒否することなく飯山の下で毎日遅くまで働いていたが、そのなかで「本当にできるのか」という不安も生まれ始めていた。
二週間たっても、まともなサンプルは一度もできていない。
その様子を聞いて、宮沢にも飯山に対する不信感が生まれつつあり、信用したい気持ちとの間で揺れ動いていた。
アドバイスを求めて有村のショップを訪ねた宮沢は、そこで元アトランティスのシューフィッター村野を紹介され、意気投合。
陸王開発に手を貸してもらうことになる。
さらに、陸王を茂木選手に履いてほしいと夢を語った宮沢に対し、村野は真剣な顔をしてその夢に乗ると言うのだった。
子供の頃から身近にあった繭への知識と、廃れてしまった養蚕業を再興させたいという飯山の夢から生まれたシルクレイ。
その調整は一か月たってもうまくいかず、サンプルに使えそうなものは偶然にできる程度でコントロールできない。
考えられることはやりつくしており、イライラから飯山と大地は口論になってしまう。
大地のイライラには、他にも理由があった。
面接で失敗したと思っていた会社から連絡があったのに、次の面接の予定が残業でつぶれてしまったのだ。
帰れと言われて自宅に帰った大地。大地の言い分を聞いたあとで宮沢が「飯山の様子を見に行く」と言いだし、しぶしぶついて行った大地は、真剣に考え続ける飯山の姿を見る。
どんなに困難であろうと乗り越えない事には先に進めない。
そのために戦うしかない。
時間と体力の許す限り。
新しいモノ開発するということは、こういうことなのかもしれないと気がつく大地。
飯山の泥臭いガチンコ勝負に付き合う覚悟を決める。
茂木はというと、いったん受けた月刊アスリートというランニングの専門雑誌からの取材依頼が、対談相手である毛塚から断られて白紙となる。
一度本音で話してみたいと思っていた茂木は、毛塚からもはやライバルとは思われていないと気付き、悔しさに涙をにじませる。
二か月近く試作品を作り続けた飯山と大地。
ついに飯山が、ずっと探していた「ちょっとしたこと」を見つけ、ようやくサンプル作りが成功する。
思いがけず飯山の目に涙が浮かんでいるのを見て、大地も泣き笑いの表情を浮かべる。
ソールの技術的な目途がつき、開発メンバーで慰労会を開く。
ソールや足型に関するノウハウがないことに不安を口にし始めたメンバーの前に、アドバイザリー契約を結んだ村野が登場。
世界一のシューズを作ろう、と乾杯しながら、宮沢は進むべき方向にかすかな明かりを見た気がしていた。
ドラマ陸王原作小説第8章感想考察
新しいものを作るには、困難にチャレンジし続ける人の根性とひらめきが必要不可欠。
それを感じさせてくれる章だ。
始まりはやはり、失敗の連続。
初めから上手くいくものなんてそうそうないと思ってはいても、思いつく限りのことはやって、できる限りの努力もして、それでもうまくいかなかったとき。
自分を信じてやり抜く力があるか、そして信じてやり続けた先に、明るい未来は本当にあるのか。
飯山がなにを考えながら、シルクレイの調整に向き合っていたのかはわからない。
ただ、ずっと一緒に働いていた大地の心情から推し量るしかない。
失敗続きで不安になったり、嘘つくつもりじゃなくてもできないってことあるじゃないか、と面接で嘘をついている自分を棚に上げて愚痴を言ってみたり。
そんなふうにグラグラ揺れている大地とは対照的に、ただひたすらに機械やデータと向き合い、サンプルを作り続ける飯山。
「ちょっとしたこと」を見つけるために、時間を惜しんで考え続けている。
そんな飯山を一番近くで見ていたからこそ、大地はイライラし面接もダメになるだろうと思いながらも仕事を抜け出すことができなかったんじゃないかと思う。
一番苦しい時に、ずっと一緒に戦った戦友。
だからこそ、衝突したとしてもまた同じ方を向いて戦いに挑める。
自分以上に努力をしている人間だと認めているから、相手が諦めるまでは付き合ってやるか、と考えることができるのだと思う。
ソール開発のめどが立った時、多くを語らず、ただただ涙があふれる。
それはもう、同じ苦しみを味わったんだから言葉なんかなくても通じ合える、感じていることは同じだろう、という二人の強い絆が感じられて、はたから見てもうらやましいほどだ。
そんなふうに分かり合える関係なんて、作ろうと思って作れるものじゃない。
逆に、戦友を失った人間もいる。
茂木だ。言葉を交わすことはなかったとしても、走る中で同じ苦しみを共有していたであろう毛塚。
その毛塚から、対談インタビューを断られてしまったのだ。
自分から提案したものでもないし、依頼を受けたものを断られるなんて結構な衝撃だと思う。
しかも、自分でも自分に自信が持てない状況だから、余計につらかっただろうと思う。
そんな時に、シューフィッターとして心を許しかけていた村野も会社を辞めてしまうのだから、どん底のどん底に落ちた気分ではないだろうか。
そんな茂木の心境が痛いほどわかっているからこそ、宮沢から「茂木に陸王を履いてもらうのが夢だ」と聞いた時、村野は真剣な顔でその夢に乗ると言ったのだろう。
一度茂木を裏切ってしまったと感じているから、もう次はないという覚悟もあったと思う。
村野と宮沢、そして村野と茂木にも、これから先戦友として夢を目指してほしいと思う。